去年7月がスーパーの開店でしたね。 振り返ってみて、いかがですか?
オープンしてやっと、震災後のマイナスからゼロに戻った感じです。
震災前からスーパーを経営していましたが、今も勉強中です。自己満と言われればそれまでですが、想いをカタチにすることは、自分自身の意地でもありました。
一人でも多くの町民にとって、生活や買い物の環境が良くなってほしい。6,000人の中の一人でも『あってよかった』と言ってくれれば。
おんまえやスーパー以外の事業にも力を入れられていますね。
震災後に始めたのは、移動販売と宿泊施設。焼津では、遠洋漁業の食料の積み込みもやっています。
母親の要望で始めたのは、介護施設です。女川の高齢化が進む中、必要とされています。商いとは違いますね。事業というより、人対人。「事業ではなくて、介護サービスです」と、先日もスタッフにたしなめられました。
大変だからこそ、やろうと思える自分がいます。
みなさんで一致団結した結果ですね。
震災後はマイナスからのスタートでした。家族や従業員が大変な想いをしている中、女川にあるものでやってみようと。移動販売車から始め、色々な業態へと展開していきました。一人でも多くの人に「あってよかった」と言ってもらえるようにしたい。努力し続けなければと思います。
一生懸命やっていれば、いろいろな人が助けてくれると信じています。感謝しかありません。
お店にも大きく「まち・ひと・モノ」すべてに “感謝” ありがとうの気持ちを込めて、とありますね。
そうなんです。私たちの営業基本方針は「女川地域全体に 幸 を届けよう!」。大正時代に佐藤米穀店として102年前に創業してから、空襲でも被災しましたし、二度の津波で被災もしましたが、これまで引き継ぎながらやってきました。
株式会社御前屋になってから今年で69年ですが、目標は、株式会社御前屋設立100周年を迎えること。女川でこれからもやっていくためには、町民に愛される企業でいなければいけないと思っています。
「困った時は、おんまえや」こちらも大事なキーワードですね。
ホームページにも書いていますが、お困りごとがあったら受けています。
何か必要だったら相談してほしい。よほど理不尽でないかぎり、断らないんです。現場が大変になるかもしれないとは思うのですが、これまでやってきたことを続けたいです。震災があったけど女川住み残ってよかった、と言いたいです。女川に残った人たちは、同じ光景を見てました。同じ想いのはずなんじゃないかと。
もちろん、町内の別のお店と繋ぐこともしています。
お互いにとってあってよかったと思えるようになりたいです。
おんまえやスーパーといえば、お惣菜コーナーや模擬せりが大好評ですね。
手作りにこだわっています。利益度外視なときもあります。「おんまえやのお弁当は、女川愛に溢れていて価格帯がおかしい」って言われたりしているみたいです。
たとえば、年金くらしの高齢者のために2食で1,000円で収めたい。味噌汁バーは、他のスーパーではなかなか見ないと思います。模擬せりは一ヶ月に一度の開催です。お客様に喜んでいただきたくてはじめました。家族連れで来ている方も多いですね。
やはり女川と言えば、お魚。魚種の多さも魅力ですね。
外の人から言ってもらうと、あらためて女川の魚の良さがわかります。
食を通じて、女川の魅力をさらに伝えていければ。
今回の「パッと食べられるお刺身コース」も、女川で水揚げされたものが中心。
近隣の石巻のものも入っているパッケージになっています。女川は魚種が多いので、喜んでいただけると思います。おいしく食べられるように、液体アルコールを使った急速冷凍「リキッドフリーズ」も導入して冷凍技術も工夫しています。
個人的に好きなのは、初夏の6月くらいの銀鮭。3月くらいから始まって、7月の一週目には水揚げが終わります。最高にうまいんです…!お刺身やムニエルにするとヤバい。
実は、震災後にライフスタイルが変わり、都会よりの味になってきています。女川ですら、魚食離れが進んでいるんです。お金を出して買うとなると肉になってしまう。
町民がもっと自分たちの町を勉強することで、幸せ度が変わるんじゃないかと。
今後やっていきたいことはありますか?
この10年間で復興を目指して、ハード面の復興は完了しました。でも大事なのは、ソフト面、ハートの部分。全員が大変な思いをした時に、同じ方向を向きました。お店としては、顧客満足度が上ったので、従業員満足度もあげていきたい。やりがいや充実度をアップしたいですね。
いま、高校生を優先的にアルバイトとして取っています。暇さえあればネット見ながらお菓子を食べてちゃうような世代。
自分の道を切り開かなきゃいけないということを、今教えないと将来厳しくなる。女川の外に出て社会人になったときに恥をかかないように、勉強を選ばないなら、自分で稼いだお金で好きなものを買えるように。
理想を言えば、卒業後に御前屋に勤めたいと言ってくれたら最高ですね。
女川こぼればなし。
取材中に、魚売り場にいた地元の居酒屋のマスターとばったり。大きなさわらを一匹さばいてもらって、箱ごとレジへ。丸ものの扱いが難しくても、あっという間に扱いやすく処理してくれるスーパーが近所にあるのも、女川の魅力のひとつ。
2022.3.22 Text : YUKA ANNEN Photo : KEISUKE HIRAI